「食べる力」は、お口から。年齢とともに変わる、口腔と唾液のお話

「なんだか食欲がない」
「飲み込むのが少し怖くなった」
「やわらかいものばかり食べるようになった」
「食事中にむせることが増えた」
「口が乾いて、食べ物が食べにくい」
年齢を重ねると、このような変化を感じる方が少なくありません。
「年齢のせいだから仕方ない」と思ってしまいがちですが、こうした変化には、歯や歯茎だけでなく、唾液、舌、噛む力、飲み込む力など、お口全体の機能の変化が関係していることがあります。
近年は、このような口腔機能の衰えを「オーラルフレイル」と呼び、健康や栄養状態との関係が注目されています。
「食べる」ためには、実はたくさんのお口の機能が必要
私たちは食事をする際、無意識のうちに下記のような一連の動作を行っています。

- 食べ物を見る・香りを感じる
- 唾液が出る
- 噛む
- 舌で食べ物をまとめる
- 飲み込む
- 食道へ送り込む
どこか1つの機能が低下するだけでも、「食べにくい」「飲み込みにくい」と感じることがあります。
特に唾液は、食べ物を湿らせたり、口の中でまとめやすくしたりするなど、食べるための環境づくりに重要な役割を担っています。
加齢に伴う唾液の量や性状の変化は、口腔内の乾燥や味覚、食べ物の感じ方などにも影響し、場合によっては栄養摂取にも関係するとされています。
「食べにくい」は、お口からのサインかもしれません
日本で提唱されている「オーラルフレイル」のチェック項目には、下記のような変化が含まれています。
- 歯が少なくなった
- 硬いものが噛みにくい
- 食べ物が飲み込みにくい
- お口が乾く
- 会話や発音がしにくい

つまり、「食べる量が減った」という変化だけを見るのではなく、「なぜ食べる量が減ったのだろう?」と考えてみることが大切です。
お口の機能低下は、栄養状態や身体的なフレイルとの関連も報告されています。
今日からできる「お口の準備体操」
朝・夕などちょっとしたタイミングでお口の準備体操を取り入れることでお口の機能を保つことも大切です。
そこで、毎日の習慣に取り入れたいのが、「パタカラ体操」です。日本歯科医師会でも、オーラルフレイル対策の口腔体操の1つとして紹介されています。「パ・タ・カ・ラ」には、それぞれ役割があります。

『パ』唇をしっかり動かして発音します。唇を閉じる力を使うことで、食べ物を口からこぼさないための動きを意識します。
『タ』舌先を上の前歯の裏側につけるようにして発音します。食べ物を舌で押しつぶしたり、まとめたりする動きにつながります。
『カ』舌の奥を上あごの奥につけるようにして発音します。飲み込むときに関わる舌の奥の動きを意識します。
『ラ』舌を丸めるようにして発音します。舌をしっかり動かすことで、食べ物をまとめる動きを意識します。
日本歯科医師会の紹介では、各発音を8回×2セットという方法も示されています。
無理に大きな声を出す必要はありません。鏡を見ながら、唇や舌がしっかり動いていることを意識するだけでもよいでしょう。
ただし、むせが頻繁に起こる、飲み込みにくさが続く、食事中に強い不安がある、体重が減ってきたといった場合には、自己判断で済ませず、歯科・耳鼻咽喉科などの医療機関や摂食嚥下を専門とする医療職へ相談することが大切です。
「お口のケア」は、歯磨きだけではありません
毎日の口腔ケアでは、「清潔にすること」だけでなく、「動かすこと」「しっかり食べるための環境を整えること」も意識してましょう。

そして、もう一つ大切なのが「内側から身体を支える」という考え方です。身体の細胞が働くために、エネルギーをつくる仕組みや、酸化ストレスに対応する仕組みが必要です。そこで、健康維持の観点から注目されている成分についての研究情報を一部ご紹介していきます。
唾液と栄養成分の研究
◆還元型コエンザイムQ10(ユビキノール)
コエンザイムQ10は、細胞内のエネルギー産生に関わる成分です。
口腔領域でも研究が行われており、2011年の臨床試験では、CoQ10を1日100mg、1か月摂取した群で、唾液分泌量と唾液中のCoQ10濃度が改善したことが報告されています。
また、軽度の口腔乾燥を自覚する健康成人を対象とした無作為化比較試験では、還元型CoQ10(ユビキノール)を含む食品を8週間摂取した群で、プラセボ群と比較して唾液流量の増加が報告されています。
「エネルギー産生」と「唾液」という2つの視点から、口腔の健康との関係が研究されている成分です。
◆アスタキサンチン
アスタキサンチンは、抗酸化作用を持つ天然由来のカロテノイドです。
口腔領域では、酸化ストレスと唾液分泌との関係について研究されており、アスタキサンチンについても唾液分泌機能への影響が動物モデルなどで検討されています。
現時点では、ヒトでの唾液分泌改善を確立したものではありませんが、酸化ストレスと唾液腺機能との関係を考えるうえで、興味深い研究対象となっています。
◆NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)
NMNは、体内でNAD⁺の産生に関わる成分として研究されています。
2024年に発表された研究では、加齢したマウスにNMNを投与したところ、唾液腺のNAD⁺量や唾液分泌量などに変化がみられ、加齢に伴うドライマウスとの関係が検討されました。
ただし、この研究はマウスを用いた基礎研究であり、ヒトにおける効果については今後の研究が必要です。

「食べる力」を守るために
お口の健康は、歯だけの問題ではありません。
「清潔にする」 「お口を動かす」「よく噛む」「十分な栄養を摂る」そして、「身体の内側から健康を支える。」
こうした日々の小さな積み重ねが、「食べる楽しみ」を長く保つことにつながります。
「最近、食べる量が減ったな」
「少し飲み込みにくくなったかな」
そう感じたときこそ、まずはご自身のお口の状態を見直してみませんか?
毎日の口腔ケアに加えて、還元型コエンザイムQ10、アスタキサンチン、NMNなど、健康維持を内側から支える成分について知ることも、その選択肢の一つです。
いつまでも、おいしく食べるために。今日からできることから、少しずつ始めてみましょう。
参考文献・研究
・Koufuchi R, et al. Effects of coenzyme Q10 on salivary secretion. Clin Biochem. 2011;44(8-9):669-674.
・Effect of gummy candy containing ubiquinol on secretion of saliva: A randomized, double-blind, placebo-controlled parallel-group comparative study.
・Yamada T, et al. Evaluation of therapeutic effects of astaxanthin on impairments in salivary secretion. J Clin Biochem Nutr. 2010;47(2):130-137.
・Wakabayashi J, et al. Nicotinamide mononucleotide suppresses cellular senescence and increases aquaporin 5 expression in the submandibular gland of aged male mice to ameliorate aging-related dry mouth. Biogerontology. 2024.
・Consensus statement on “Oral frailty” from the Japan Geriatrics Society, the Japanese Society of Gerodontology, and the Japanese Association on Sarcopenia and Frailty.